架空のプロジェクトです。支援はできません。
WILD HONEY 2026 — 梅雨明けの森

今年の森の蜜が、採れました。

七月の十日から二十二日まで。今年、山に入れたのはその十二日間だけでした。
採れた蜜は、去年より色が濃く、少し酸味が立っています。同じ山の、同じ木から採ったものです。それでも同じ味にはなりません。毎年そうです。
これは今年の森の記録です。来年これと同じものが採れる保証は、どこにもありません。
ごあいさつ — 山に入って、蜜を探しています

はじめての方に、少しだけ。
宮崎の山間に住んでいます。もともとは林業で、木を伐る仕事をしていました。山を歩いているうちに、杉の古木の洞に蜂が出入りしているのを見つけたのが始まりです。
巣箱は置いていません。私がやっているのは養蜂ではなく、もともとそこにある巣を探して、少しだけ分けてもらうことです。山の持ち主に許可をいただいて、毎年決まった山にだけ入っています。
去年はじめて、それを瓶に詰めてお分けしました。用意できたのは380本でした。
なぜ売るようになったのか、よく聞かれます。最初は売る気などありませんでした。知り合いに配っていたら、そのうちの一人が「これは配るものじゃない」と怒ったんです。ちゃんと値段をつけて、続けられるようにしなさいと。その人がいなければ、いまも配っていたと思います。
去年の蜜と、今年の蜜は違います

去年の「春の森」を持っている方は、並べてみてください。色がはっきり違います。
去年は明るい琥珀でした。今年はもっと濃く、赤に近い。舐めると、去年にはなかった酸味が最初に来ます。後から甘さが追いかけてくる。
去年の蜜を買ってくださった方から、一年かけていろいろな感想をいただきました。「思っていたより甘くない」という声がいちばん多かったです。市販の蜂蜜と比べると、確かにそうだと思います。砂糖の甘さではないので、最初は物足りなく感じる方もいます。
今年の蜜は、その意味ではもっと極端です。甘さより先に酸味が来るので、はじめての方は驚くかもしれません。
同じ山です。同じ木です。それでも違います。理由は分かっています。
梅雨が長引いた年でした

今年は梅雨明けが二週間遅れました。
その間に栗の花が終わってしまいました。蜂は山の奥へ行ったようです。この時期にあのあたりで咲いているのは、トチ、リョウブ、ノリウツギあたりです。今年の蜜が濃いのは、トチが多かったからだと思っています。
どれか一種類の花の蜜ではありません。年によって、どの花がどれだけ入るかが変わります。それを揃えることは、私にはできません。
花の咲き方は毎年変わります。蜂がどこへ行くかは、蜂が決めます。私にできるのは、その年に採れたものを、そのままお渡しすることだけです。
ブレンドすれば、毎年同じ味に近づけることはできます。去年の分を少し混ぜて、味を揃える。実際そうしている作り手もいますし、それが悪いとも思いません。
ただ、それをやると「その年の森の味」ではなくなります。私が売りたいのはそこなので、混ぜません。
今年の蜜の、3つの特徴

去年との違いを、三つに絞って書きます。
特徴1 — 色が濃い

光にかざすと、去年は透けました。今年は透けません。赤みのある濃い琥珀で、瓶の底が見えないくらいです。
濁っているわけではありません。漉したあとの澄んだ状態で、この色です。
濃い蜜が良い蜜、というわけでもありません。去年の淡い蜜の方が上品だ、という方もいます。色は、その年に蜂がどの花に行ったかの結果でしかありません。
濃いのは、古いからではありません。蜂蜜は置いておくと色が濃くなりますが、これは採ったばかりの今年の蜜です。行った花が違うと、色そのものが変わります。
特徴2 — 酸味が先に来る

舌に乗せると、最初に軽い酸味があります。柑橘のような、はっきりした酸ではありません。発酵しかけの果実に近い、丸い酸味です。
そのあとで甘さが来て、最後に森の匂いが鼻に抜けます。この順番が去年と逆でした。
特徴3 — 量が採れませんでした

正直に書きます。今年は去年より少ないです。
梅雨が長かった分、巣に溜まっていた量そのものが少なかった。無理をすれば、もう少し採れました。採りませんでした。理由は後で書きます。
去年380本お出しできたところが、今年は用意できる本数がそれを下回ります。数を増やせないので、今回のリターンは早い段階で締め切ることになるかもしれません。先に書いておきます。
どうやって採るのか

採り方を書いておきます。動画で見ている方には見慣れた光景かもしれません。
まず、巣のある木まで歩きます。近い木でも一時間、遠い木だと二時間半かかります。道はありません。前の年に通った跡を頼りに登ります。
持っていくのは、燻煙器と、竹で編んだ籠と、短いナイフと、布。それと登るためのロープです。荷物は軽いほどいい。重いと足元が危なくなります。
木に登る前に、手を合わせます

これは作法というより、私の癖です。
山に入って、木の下に着いて、登る前にいちど手を合わせます。今日は分けてもらいます、という気持ちの整理です。誰に見られているわけでもありません。
煙で、蜂に離れてもらう

生の杉の葉を燃やして、煙を焚きます。
煙を当てると、蜂は巣から少し離れます。刺激しないよう、ゆっくり時間をかけます。急ぐと蜂が興奮して、こちらも危ないし、蜂も死にます。この工程がいちばん時間がかかります。
防護服は着ていません。動きにくいのと、木の上では暑さで判断が鈍るからです。刺されることは、正直あります。ただ、煙をきちんと焚けば、そう何度も刺されるものではありません。
三割しか採りません

巣にあるもののうち、採るのは三割までと決めています。
蜜は蜂の食料です。全部持って行けば、その群れは冬を越せません。越せなければ、来年その木に巣はありません。
去年より量が少なかったのは、この線を守ったからです。「もっと採れませんか」と聞かれることがありますが、採れません。採ったら、来年が無くなります。
三割という数字に科学的な根拠はありません。山を見てきた人たちが昔から言っていた目安です。実際、欲を出して採った年の翌年に群れが消えていた、という話は近所でいくつも聞きます。
私にとっては、来年も同じ木に登れることの方が大事です。
巣のこと

採った巣は、その場で見ます。
白い部分が新しく、黄色い部分が古い。幼虫のいる面は採りません。持ち帰るのは、蜜だけが詰まった面です。
古い巣ほど色が濃く、匂いも強くなります。何年も使われた巣板は、蜜蝋そのものが飴色になっていて、それだけで香りがあります。

割ると、六角形の部屋から蜜が流れ出します。ここが、この仕事でいちばん好きな瞬間です。
蓋がけといって、蜜が完成した部屋には蜂が蝋で蓋をします。この蓋がかかっているものだけを持ち帰ります。蓋のない部屋の蜜はまだ水分が多くて、瓶に詰めると発酵してしまいます。
漉して、詰めるまで

家に持ち帰って、布で漉します。加熱はしません。温めると香りが飛ぶからです。
自然に落ちるのを待つので、時間がかかります。搾れば早いのですが、搾ると巣のかけらや花粉まで入って、味が濁ります。落ちきるまで三日ほど置いておきます。
漉すあいだ、家の中が蜜の匂いでいっぱいになります。一年でこの三日間だけです。子どもの頃、祖母の家が味噌を仕込む時期に同じ匂いの記憶があって、あれに少し似ています。

漉し終わったら、瓶に詰めます。ここも手作業です。全部で一人でやっているので、詰められる本数がそのまま出せる本数になります。
食べ方

そのままひとさじ、がいちばんです。パンに塗る前に、まず舐めてみてください。
金属のスプーンより、木のさじの方が味が分かりやすいと思っています。理由はうまく説明できませんが、何人かに試してもらって、みんな同じことを言いました。

すすめたいのは、焼きたての卵焼きに少しかけることです。甘い卵焼きが好きな方には、たぶん驚かれます。あとは、癖の強いチーズに合わせるのもいい。ヨーグルトに入れるなら、量は少なめで十分です。
意外なところでは、焼いた肉に合います。塩で焼いた鶏の皮目に、ほんの少し。脂と酸味が合うのだと思います。ある料理人の方に教わってから、家でもやるようになりました。
紅茶に入れるのは、正直もったいないと思っています。香りが飛びます。
前作をお持ちの方へ

去年の「春の森」を持っている方は、残しておいて、並べて食べてみてください。
去年の蜜を「もったいなくて開けられない」と言ってくださる方がいます。気持ちはありがたいのですが、開けてください。蜂蜜は腐りませんが、いちばんおいしいのは、その年のうちです。
年が違うだけで、こんなに変わるのかと思っていただけるはずです。今回は2本セットもご用意しました。去年の分は残りが少ないので、数に限りがあります。
一年でいちばん短い、二週間

採れる時期は、梅雨明けからの二週間ほどです。
早すぎると蜜がまだ薄い。遅いと蜂が食べ始めてしまう。その年の天気次第で、二週間が十日になることもあります。今年は十二日でした。
この期間のために、残りの一年があります。山を見回って、どの木に巣があるかを確かめて、道を整えて、また待ちます。
秋は、翌年に登る木を探して歩きます。冬のうちに、崩れた斜面の足場を直します。春は花の咲き具合を見に行きます。蜂がどこに飛んでいるかを追うと、だいたい巣の見当がつきます。
採る日は十日ほどで、残りの三百五十日は、その準備です。
危ないこともあります
登っている最中にスズメバチが来ることがあります。足場の悪い斜面で、片手がふさがっている状態です。
去年は一度、途中で降りました。その日は諦めて帰りました。無理をしたら、来年が無くなるのは私も同じです。
保存と扱い
常温で置いてください。冷蔵庫に入れると白く固まります
固まっても品質は変わりません。湯煎で戻せますが、60度を超えないように
非加熱のため、一歳未満のお子さんには与えないでください
賞味期限は2年としていますが、蜂蜜は本来腐りません
よくある質問/スケジュール
Q. 去年と味が違うなら、どちらが良いのですか。
どちらが上ということはありません。違うだけです。私は今年の方が好きですが、去年が好きだという方も多いと思います。
Q. なぜこの値段なのですか。
採れる量が決まっているからです。一人で山に入って、三割だけ採って、漉して詰めています。増やせません。
Q. 巣ごと食べられますか。
コムハニー付きのリターンをご用意しました。数が読めないため限定です。蜜蝋ごと噛んで、最後は残ります。
Q. 来年も買えますか。
分かりません。来年の森がどうなるかは、来年にならないと分かりません。
Q. 結晶して白くなりました。失敗ですか。
いいえ。非加熱の蜂蜜は温度が下がると結晶します。むしろ加熱していない証拠です。
Q. 同行できるリターンは、どのくらい大変ですか。
山道を二時間ほど登ります。特別な技術は要りませんが、体力は要ります。木に登るのは私だけで、同行の方は下から見ていただきます。
スケジュール:募集終了後、11月上旬から順次発送します。コムハニーと木箱入りは12月、採集の同行は来年7月です。遅れる場合は必ず事前にご連絡します。
最後に — 来年の蜜は、約束できません
木を伐る仕事をしていたころ、山は「切り出す場所」でした。
いまは、待つ場所になりました。花が咲くのを待って、蜂が集めるのを待って、蜜が溜まるのを待つ。こちらの都合では、何ひとつ動きません。
来年も同じ蜜が採れるとは、お約束できません。花が変われば味が変わるし、群れが消えている年もあります。それでも毎年、同じ山に入るつもりでいます。
去年の分を買ってくださった方の何人かが、今年もこのページを見てくださっていると思います。同じものをお出しできないのに、また買っていただくのは、考えてみれば妙な商売です。
それでも、去年と今年で味が違うことそのものを面白がってくださる方がいて、この二年で少し分かってきました。私が売っているのは蜂蜜ですが、たぶんそれだけではないのだと思います。
今年の森の味を、そのままお届けします。